サンジェルマンの思い出(令和2年度)

題:パンオショコラ

作:宇野木真帆


噴水のある駅の一角の、サンジェルマンには、こんな素敵なパンがありました。
パンというけれど、じつはパイ。

表面はまるっとコーティングされたチョコレートに、中もぎっしりのチョコレート。銀のホイルケースにのせられて、高級感を漂わせています。


そう、わたしの大好きな、パンオショコラがありました。


ミートパイと悩んでは、一歩抜きんでるパンオショコラ。


宝石を見つけた時のような、キラキラした気持ちで、これ買って!と、ママにせがんでいたけれど、自分で取れるようになる頃、お別れをしました。


じつはちょっとぽっちゃりさんで、思春期の悩みに、一歩遅れをとって、ばいばいパンオショコラ。


そうして気がつけば、いつの間にか、わたしは大人になり、久しぶりにパンオショコラを思い出した時にはもう、いなくなっていました。


チョコがつくパンは、チョココロネにチョコドーナッツ、いろいろあるけれど、しあわせいっぱいで満たしてくれるのは、パンオショコラだけなのです。

でも、いつもいないのね。


わたしはもう一度、パンオショコラがたべたい。


見渡す限りのチョコレート、かぶっと口にふくめば、じゅわーっと広がり、中までしっかりチョコレート。

銀の縁取りがおしゃれで、他のよりもちょっとだけ高級感。


新顔はちらほら見かけるのに、パンオショコラはいつもいません。


そうしている間に、結婚して、子どもが生まれて、わたしは引っ越すことになりました。


とうとう、パンオショコラに会えないまま、ばいばいサンジェルマン。


緑豊かな燕が舞う駅で、ベビーカーと一緒に散歩をしていると、オレンジマークのパン屋さんがありました。


右角に佇んでいるサンジェルマン。


二人だけど一人で過ごしているような日々のなか、唯一、故郷とつながっている場所。
さびしかった街で、ママに会えたような、そしていつしか、わたしがママになっているという、時の流れ。


どれだけ時間が経っても、パンオショコラには会えていないけれど、こうしてつながっているから、また、いつか、会える気がしています。


そのとき今度は、わたしが娘に、パンオショコラを買ってあげる番です。

 

 

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