short short story「こんな夢を見た。」

short short story「こんな夢を見た。」

作:宇野木真帆

こんな夢を見た。

世界のはじまりは眠りに似ている。
光も闇もない、白や黒でもない、感覚も意識もない、無・・・というのは、
眠りにおちた時に、とても似ている。

光、あれ。
と、まぶしさに貫かれて目を覚ませば、ぽかあんと宙(ちゅう)に浮かび、わたしはあたりをふわふわ漂っていた。
まだ、目を覚ましたばかりで、どこへ向かうかもわからず、大きなうねりのなかに、わたしはただ、いるだけ。

そのまま流されていると、レイピアの切っ先のような、きらっと細く、鋭い光が、わたしの頬をかすめて後方へ飛んでいった。
意識のなかではじけるスパーク。
それは、いくつにも分かれて、散乱しながら、わたしを置いて、先へ行ってしまう。

まって、いかないで、レプトン…。
クォーク、わたしもつれてって…。
思いっきり宙(ちゅう)を蹴って泳いだ。
生まれたばかりの光をもとめて、もがくように泳いでいった。
だけど、どれだけ泳いでも、どれだけこの手を伸ばしても、光は、届かない星のようになって、砕け散ってしまう。

シャラララン、シャラララン、流れていく、天の川のような、光の粒子たちが、世界の構成素(こうせいそ)として消える時、わたしは、ここが、真っ暗闇であることを思い出すだろう。
あっちでも、こっちでも、シャンパングラスはひっくりかえり、しゅわしゅわしゅわと、光の気泡が、うねりのなかへ消えていく。
そして、わたしの呼吸も、真っ暗闇に、溶けていく・・・。

吐き出した最後の悲しみが、ごぼっと、うねりのなかへ染みたとき、液体の世界は、血の気が引くように冷え込んだ。
ノスタルジーなエネルギーは、膨れ上がり、ものすごい速さで、わたしを遠くへ引っ張っていった。
どこまでも、どこまでも遠くへ・・・。

慣性の法則にしたがって、意識をゆだね、重力の厚みを感じながら、目を閉じていると、真っ暗闇の中から、音がした。
ぷちっ・・・ぷちっ・・・それは、光を糧に、生まれる音。
気がつけば世界は、光の音に満ちていた。
やがて聞こえてくる、星が生まれるメロディや、銀河が生まれるハーモニーへ、耳を澄ますこと・・・百億年。

それから起きた出来事を、わたしは永遠(えいえん)に忘れないだろう。

星の海で産声をあげ、大地で歓喜の雄叫びをあげるまで。
それは、体に刻まれ、生まれるたびに、思い出す。
ミジンコのような体から、海を泳いだ水かきを捨て、森を駆け回る尻尾の代わりに、二足歩行の自由を手に入れた・・・!
わたしは必ず思い出す。
この世界の、美しきはじまりの光を。
この世界に満ちていた、光の音を。
わたしは眠るたびに思い出す。
魂に刻まれた、世界のはじまりを、無へと帰るたびに思い出す。

わたしたちは、かつて光から生まれていたことを、わたしは永遠に忘れない。

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