さて、何から書き始めようか。
そう思わせる程に感情が詰まった本だった。
辻村深月さんの「スロウハイツの神様」は、
ストーリーを追うように読むでのではなく、
この上巻・下巻を自分の感情に照らし合わせて読んでほしいと思った。
きっと、自分の感情の何かがこの物語の中に織り交ぜられていると思う。
読んだ感想なので大いにネタバレをしておりますのでご容赦ください。
私は想像力に欠けることがある。
早く、早く、結論に辿り着きたくて、
その結論だけを読みたくて、今まで焦って読んでいたのだと自覚する。
スッと入ってこない文章はちゃんと一単語一単語を想像して読んだ。
手の平をチューリップのようにして握手を誘っていた。
というような文章がある。
文字を追うスピードとは比べ物にならない程に、文章を凝視して想像して、
大柄のコーキがそんなポーズをしていること。
それが示唆していること。
それを感じて涙が出そうになった。
この本はゆっくり読む本。
タイトルにスロウって入っているくらいですからね。
好きなところを二つあげようと思います。
食事を大切に描かれているところ
大切に描かれた食事がもたらす、なんともいえないあたたかさが大好きです。
環が栄養失調で倒れたとき、スーが作ってくれた味噌汁の香り。
その前に環が母親に言っていたご飯と味噌汁でどうして幸せになれないんだ!
と言ったのもよかった。
あのおばさんから味噌をもらえなくなったと、絶望感を食べるという行為で表現しているのもいい。
あとは、コーキがプリンセス・きみこの感想を述べる時に言った良かったところの感想も食事に関することでした。
環がスーに別れを告げるときに言った「ご飯ご馳走様」と言うのも良かった。
あれが別れのサインだと感じるように食事の言葉で綴られているのもすごい。
それからどうしても食べたくなってしまうハイツ・オブ・オズのチョコレートケーキ。
よしもとばななさんのキッチンでカツ丼が食べたくなる愛おしさと同じように、
環たちにとって特別な食べ物。
スロウハイツの神様という小説の、チヨダ・コーキという小説。
小説の小説というケーキに私もとらわれ探しましたよ。
イメージのハイツ・オブ・オズを。
コーキが無条件でつくられたスーの食事をがっついているのも良かった。
最初の唐揚げをむさぼっているコーキも好きですよ。
そうした食に対しての何かあたたかいものを感じられる作品はとても好きです。
予想を外してほしくないフラグ
スロウハイツの神様では先が読めた時に、どうか予想を外さないでほしいと思った。
小説を読むうえでは、読者をどれだけ裏切れるか、
やられたぁ!に持っていけるかが小説の一般的な面白さだと思っていた。
まさかそんな展開だったとは!というのが小説の面白さで、
先が読めて的中してしまうとやっぱりね、私は分かっていたよ。
だからあんまり面白くなかった。
それが小説の一般的な面白さだと思っていたので、初めて予想が的中してくれと祈りました。
コーキの天使ちゃんは特に。
最終章でコーキが自ら天使ちゃんを探し始めて、ついにその人物に辿り着いた時、
これは狩野ということもあるか…?と思ったけれど、
環であってくれ!と願いましたよ、本当に。
コーキは過去のどんなことでも覚えている。
って話しがあった時も、コーキが環に「お久しぶりです」って言ったのは、
人違いだったとかじゃ断じてない!っていうフラグも的中してくれて本当に良かった。
それから、ハイツ・オブ・オズの話でコンビニで売られていたことがあったという嘘が、
嘘であってほしいと思った。
でもなんでそんな嘘を環がついたのかが狩野と同様に分からなかった。
だから、あれはもう環の地方擁護だったのではないかと自己完結していた時に、
やっぱり環は嘘なんてついてなかった!
良かった!!そんなことやっぱりなかったんだよと涙した。
予想を外してほしくないけれど、どうやったら予想が的中するのかが読めない。
という新しい推理(ミステリー)は私にとって小説の革新を起こす新しい出会いでした。